九州大学大学院工学研究院特別講演

九州大学大学院工学研究院特別講演 九州大学21世紀交流プラザ

香取眞理

日時:6月6日(火)15:00−16:30

題目:量子ウォークの特異な拡散現象

概要:量子的な拡散過程のモデルとして導入された量子ウォークは, 最近,量子情報理論,確率論,強相関電子系などの 研究と関連して注目されている. 通常の古典的なランダム・ウォークの到達点の空間分布は, 連続極限でガウス分布に収束し,熱拡散方程式の解を 与えることは良く知られている. これに対して,量子ウォークの計算機シミュレーションを 行い到達点の空間分布を見てみると,ガウス分布の 釣鐘状とは対照的に,中心(出発点)近くでの確率値は小さく, 逆釣鐘状になっていることが分かる. 量子ウォーカーの初期状態は,初期位置とともに 量子ビットによって指定されるが, 到達点の空間分布の形が初期量子ビットに大きく依存することも, 古典的なランダム・ウォークでは見られなかった 特徴である.最近,今野紀雄氏(横浜国大工学部)によって, 1 次元量子ウォークの擬速度分布の弱収束 (モーメント収束)定理が証明され,量子ウォークの 到達点分布の量子コイン依存性と初期量子ビット依存性が 解析的に明らかになった. 本講演ではこの定理を紹介する. 我々は, 量子ビットを量子スピンと見なすことにより, 1 次元量子ウォークをフーリエ変換した系が, 3 次元運動量空間でのワイル方程式 (相対論的な量子力学の方程式である ディラック方程式で質量を零としたもの)で 表されることに気がついた. この変換則を用いることにより,今野の分布関数を 導出する.


参考文献: M. Katori, S. Fujino and N. Konno,
Quantum walks and orbital states of a Weyl particle,
Phys. Rev. A 72 (2005) 012316/1-9.