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2018 年度卒業研究案内

私は揺らぎの物理と数学に興味があります.量子力学での揺らぎは不確定性から生じる原理的なものであり,統計力学での揺らぎは情報の縮約によって生じるランダム性から発生するものです. このように,量子力学における揺らぎと統計力学における揺らぎとは,全く別物のように見えますが,無限個の粒子の量子状態を扱う量子場の理論や,散逸を伴う非可逆な現象を扱う非平衡統計力学を考えていくと,不思議なことに両者の違いは薄れ,むしろ両者に共通する揺らぎの本質論に迫らなければならなくなります.

そのような状況の下,私は大学院生たちや助教のセルヒオ・アンドラウス氏と一緒にランダム行列理論に関係した非平衡統計力学モデルの研究をしています.ランダム行列というのは成分が乱数 (確率変数) である行列 (つまり「乱行列」) のことです.こうなると何もかもハチャメチャでめちゃくちゃになってしまいそうですが,不思議なことに,行列のサイズを無限大にしていくととても美しい確率法則が現れるのです.この法則は綺麗なだけでなく普遍的で,さまざまな物理現象を説明する上で有効なのです.実際,原子核理論,ゲージ理論 (量子色力学),乱れた電子系 (アンダーソン局在),スピングラス,量子輸送現象,量子カオス,対数ガスの統計力学,粗い界面の成長,交通流モデルなど,物理学におけるランダム行列理論の応用は幅広いものがあります.(数学の分野でも数論,数え上げ組合わせ論,群の表現論,多変数統計学,工学の分野でも通信理論やネットワーク理論,その他,経済・社会学,生物学,生態学の分野でも応用が広がっています.)

具体的に研究課題を箇条書きにすると,次のようになります.

(1) 確率過程,特にランダム行列理論に関係する行列式確率過程とその拡張

(2) 共形場理論と関連の深い Schramm-Loewner 方程式 (SLE) による臨界現象・フラクタルパターンの研究

(3) 非平衡相転移を示す交通流モデルや粗い界面成長の数理モデルの研究

(4) 数え上げ組み合わせ論や可積分系における q-拡張楕円拡張の確率過程への応用(量子ウォーク模型の研究を含む)

この研究室ホームページには活動記録や資料 (写真や pdf.file) がありますので参照下さい.(なお,私は 2016 年度から 5 年間,メンバーとして国内の大きな研究プロジェクトに参加しています.大学院生たちにも重要な国際会議やスクールに参加する機会を提供することができます.)

あいにく私は,2018 年度前期に半年間ヨーロッパで在外研究を行うため,卒業研究は行いませんが,大学院生は募集いたします.上記のようなハードだがホットな理論研究に挑戦したい人は是非,相談に来て下さい.居室は理工1号館 5 階 1538 室です.(2018 年 3 月末から 9 月初めまでは,メール (katori@phys.chuo-u.ac.jp) だ連絡してください.)

2017年12月 香取眞理